episode 1 冬のおくりもの−プロローグ−



   見渡す限り、白銀の世界。
   木々にも、民家の屋根の上にも、太陽の光を受けてきらきらと輝く雪が積もっている。

   はっ、はっ、

   頬を真っ赤にし、白い息を吐きながら、雪原にしゃがんで何かをせっせと作っている少女がいた。

  「ユキ」

   背後から名前を呼ばれ、少女は振り返る。

  「おはよー、けいちゃん」

   ユキ、と呼ばれた少女は、そう呼んだ自分より一つ年上の少年に声をかけた。
   けいちゃん、と呼ばれた少年は、おう、と、ぶっきらぼうに返事をすると、ぎし、ぎし、と雪を踏む音を立てて、少女に近寄る。
   寒い、寒い、冬の朝。

  「……朝っぱらから、何やってるんだ?」

  「えへへ。雪だるま、作ってた」

   そう言って少女は手袋をはめた手に、小さな雪だるまを持って立ち上がった。

  「東京って、こんなに雪、降らないから。なんだか嬉しくって」 

   かわいいでしょう? と少年にそれを見せる。

  「……元気だな……。寒くねーのかよ?」

   少し呆れたように、少年は訊いた。生まれてからずっとこの土地に住んでいる彼にとっても、今日の寒さはこたえた。

  「やだなー、私は“ユキ”ちゃん、だよ? こんなの全然へー……」


      へくしぃっ!!


   平気、と言おうとしたのだろうが、くしゃみに阻まれてしまったようだ。 

  「ほら見ろ。北海道の冬、なめんなよ。」

   少年は、ずずっ、っと鼻をすすりあげている少女の傍まで近づくと、自分が巻いていたマフラーを外し、少女の首に巻いてやった。 

  「ばあちゃんが雑煮作ってっから、もう家に戻るべ?」

   家の方へと歩き出す少年。しかし、少女が着いてくる気配はない。

  「? どうした?」


  「……」

   少女は、首に巻かれたマフラーをきゅっ、と握りしめ、見つめていた。


       ・・・ あったかい・・・


   少女は顔を上げる。自分を待っている少年の姿が目に映る。


   少女は駆け出した。深く積もる雪に足を取られ、よたよたと、少年に近づき……




   そのまま、少年の腕に抱きついた。


  「え、なん……?」

   突然のことに、少年は驚き、少し照れながら訊いた。

   少女は、すぐには答えない。
   頬を上気させた彼女の白い息が、少年の腕を包むダウンジャケットの袖にかかり、砕けて消える。



  「…… ふたりだと、寒く、ないね……」


   うつむき気味に、少女がつぶやいた。


  「はぁ?何急に。そんなこっぱずかしいこと言って……」


  「ね?」

   少女は少年を見上げる。
   少年は少女の顔を見た。



   その目元が、雪の反射だろうか。きらり、と光って見えた。


   それはまるで   雪のように  今にもとけて   消えてしまいそうな……




       笑顔



  「うん…… そうだな……」

   くすん、と鼻をすすり上げる音。

   ジャケットの袖を握る、小さな手。

   肩によせた、頭  そうすることで感じる、髪の匂い……


   少年は自分の左手で、そっと、少女の肩を抱いた。



   今、


   そばにいる。



   ほら、




   こんなにも、ちかくに……











     君と近づける、この冬こそが

     いちばん、あたたかい……






冬のおくりもの−プロローグ− <了>    




 あとがき

  冬のおくりものepisode 1。いかがだったでしょうか?
  もともと短編の漫画だったものを文章に書き換えてみました。
  ……ううう! 文章だけっていうのは難しい!!
  今後も精進して行こうと思います。<2007.4.25>

  ちょっと修正<2007.5.10>


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